1980年代、テレビCMをきっかけに日本中で爆発的なブームを巻き起こした「エリマキトカゲ」。あの独特な走り方や、襟を広げた威嚇ポーズは今も多くの人の記憶に残っています。しかし、ブームから数十年が経った現在、エリマキトカゲは「一過性の珍獣」ではなく、じっくりと向き合える「魅力的なペット爬虫類」として再注目されています。
エリマキトカゲを飼育するには、樹上性トカゲ特有の高さのあるケージや、厳密な温度・湿度管理が必要です。また、見た目のインパクトとは裏腹に、実は非常に繊細で臆病な性格をしています。
この記事では、爬虫類ショップの店長として多くの方に飼育指導を行ってきた筆者が、エリマキトカゲの最新の飼育方法、値段の相場、寿命、そして「懐くのか?」という疑問まで、プロの視点で徹底解説します。
[著者情報]
爬虫類専門店店長・九条 龍一
爬虫類飼育歴25年。専門店「レプタイル・ラボ」を経営し、年間300匹以上のトカゲの販売と飼育相談に乗っている。エリマキトカゲの野生個体(WC)と繁殖個体(CB)の両方に精通しており、個体の性格に合わせた「ストレスのない飼育環境作り」を提唱している。
なぜ襟を広げる?エリマキトカゲの不思議な生態と魅力
エリマキトカゲの最大の特徴である「襟(えり)」は、首の周りにある皮膚の膜です。野生下では、この襟を大きく広げることで自分を大きく見せ、天敵を驚かせて追い払う「威嚇」の役割を果たします。また、求愛行動や、体温調節のために広げることもあります。
エリマキトカゲの主な生息地は、オーストラリア北部やニューギニアの森林地帯です。樹上生活を基本としており、鋭い爪で木を登り、昆虫や小型の爬虫類を捕食します。
飼育下では、この「襟を広げる姿」を頻繁に見ることは実はあまり良くありません。なぜなら、エリマキトカゲが襟を広げるのは「強い恐怖やストレスを感じているサイン」だからです。飼い主を信頼し、リラックスしているエリマキトカゲは、滅多に襟を広げません。その穏やかな表情こそが、真の飼育の醍醐味と言えるでしょう。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: エリマキトカゲが襟を広げて威嚇してきたら、無理に触ろうとせず、そっと距離を置いてください。
なぜなら、エリマキトカゲにとって威嚇はエネルギーを激しく消耗する行為であり、繰り返すと拒食(エサを食べなくなること)の原因になるからです。ブーム当時の「走らせる」「威嚇させる」というイメージは捨て、エリマキトカゲが襟を閉じてリラックスできる環境を作ることが、長期飼育の最大の秘訣です。
飼育前に知っておきたい!値段の相場と寿命、必要な初期費用
エリマキトカゲを家族に迎える前に、経済的な準備と寿命に対する覚悟が必要です。
エリマキトカゲの値段相場
現在、日本で流通しているエリマキトカゲには、主に「インドネシア産(ニューギニア産)」と「オーストラリア産」の2系統があります。
- インドネシア産(ニューギニア産): 30,000円〜60,000円前後。流通量が多く、一般的です。
- オーストラリア産: 200,000円〜500,000円以上。輸出制限があるため非常に希少で、大型になり、色鮮やかな個体が多いのが特徴です。
エリマキトカゲの寿命
エリマキトカゲの寿命は、適切な環境下であれば10年〜15年ほどです。中型トカゲとしては比較的長く、人生の長い時間を共にするパートナーとなります。
エリマキトカゲ飼育の初期費用目安
| 項目 | 概算費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 生体代 | 30,000円〜 | インドネシア産ベビーの場合 |
| 飼育ケージ | 25,000円〜 | 高さ90cm以上の大型ケージを推奨 |
| 紫外線ライト・照明 | 10,000円〜 | メタルハライドランプが理想的 |
| 保温器具(パネル・電球) | 8,000円〜 | サーモスタットとの併用が必須 |
| 止まり木・床材・水入れ | 5,000円〜 | 登りやすい太い枝を用意 |
| 合計 | 約78,000円〜 | 生体代によって大きく変動します |
失敗しない飼育環境の作り方|ケージサイズと温度・湿度管理の極意

エリマキトカゲは樹上性のため、横幅よりも「高さ」を重視したケージ選びが重要です。
1. ケージのサイズ
ベビーの頃は60cmクラスのケージでも飼育可能ですが、成体になると全長60cm〜90cmに達します。最終的には幅90cm×奥行45cm×高さ90cm以上のケージが必要です。高さがないと、エリマキトカゲが本来の動きができず、ストレスから鼻先をケージにぶつけて怪我をする「マウスロット」の原因になります。
2. 温度と紫外線の管理
エリマキトカゲは日光浴を非常に好みます。
- 基本温度(ホットスポット): 35℃〜40℃
- 基本温度(クールスポット): 25℃〜28℃
- 夜間温度: 20℃〜23℃を下回らないように管理
強い紫外線(UVB)が必要です。紫外線が不足すると、骨がもろくなる「くる病」を発症し、一度発症すると完治は困難です。
3. 湿度の維持
熱帯・亜熱帯に生息するため、湿度は60%〜80%を維持してください。特に脱皮前は湿度不足だと脱皮不全を起こし、指先が壊死することもあります。1日2回の霧吹きや、自動噴霧器(ミスティングシステム)の導入が効果的です。
エリマキトカゲは懐く?コミュニケーションと給餌のポイント
「エリマキトカゲは懐くのか?」という質問をよく受けますが、正確には「飼い主に慣れ、認識するようになる」という表現が適切です。
コミュニケーションのコツ
エリマキトカゲは賢いトカゲです。毎日決まった時間にエサを与え、掃除を繰り返すことで、「この人は危害を加えない存在だ」と学習します。慣れてくると、ケージを開けただけでエサを求めて寄ってきたり、手から直接エサを食べたりするようになります。ただし、ベタベタと触られることを好む動物ではないため、ハンドリングは短時間(5分〜10分程度)に留めましょう。
エサの種類と与え方
エリマキトカゲは肉食性の強い雑食です。
- 主食: コオロギ、デュビア(ゴキブリ)、シルクワームなどの昆虫。
- 副食: ピンクマウス(成体のみ、たまに)、トカゲ専用の人工飼料。
- サプリメント: カルシウム剤の添加は必須です。
エリマキトカゲに関するよくある質問(FAQ)
Q: エリマキトカゲは多頭飼いできますか?
A: 単独飼育を強くおすすめします。
エリマキトカゲは縄張り意識があり、特にオス同士を同じケージに入れると激しい喧嘩をします。メス同士やペアでも相性があり、ストレスで一方が衰弱することが多いため、1匹につき1ケージが基本です。
Q: 襟がずっと閉じたままですが、病気ですか?
A: いいえ、それが健康でリラックスしている状態です。
前述の通り、襟を広げるのは異常事態のサインです。普段は首にピタッと畳まれているのが正常です。逆に、何もないのに常に襟を広げている場合は、周囲の環境(騒音や視線)に強いストレスを感じている可能性があります。
Q: 人工飼料だけで育てられますか?
A: 個体によりますが、昆虫との併用が現実的です。
人工飼料を食べる個体もいますが、エリマキトカゲは動くものに反応して捕食する習性が強いため、昆虫をメインにする方が健康を維持しやすいです。
まとめ:エリマキトカゲとの暮らしを楽しむために
エリマキトカゲは、かつてのブームのような「おもちゃ」ではなく、適切な環境と深い愛情を必要とする、非常に知的な爬虫類です。
- 高さのある大型ケージと、強力な紫外線・温度管理を準備する。
- 「襟を広げさせない」ことが、健康で長生きさせるためのプロの鉄則。
- 10年以上の寿命を全うさせるため、昆虫エサの確保と毎日の霧吹きを怠らない。
あの独特なシルエットが、あなたの部屋の木の上でリラックスしている姿を見るのは、何物にも代えがたい癒やしになります。準備を整え、エリマキトカゲとの素晴らしい生活を始めてみてください。
[参考文献リスト]


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