「お忙しいところすみません」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
ビジネスメールを書くとき、無意識にこのフレーズを使っていませんか?
もちろん、間違いではありません。しかし、「とりあえずこれを書いておけば失礼にならないだろう」という思考停止で使っているとしたら、あなたは大きな損をしています。
なぜなら、クッション言葉は、選び方ひとつで「ただの定型文」にもなれば、「相手の心を動かし、無理な依頼さえも快諾させる魔法の言葉」にもなるからです。
「いつも同じ言葉ばかりで、語彙力がないと思われていないかな?」
「目上の人に、もっと敬意が伝わる表現はないだろうか?」
そんな悩みを持つあなたへ。
言葉の専門家である私が、「お手数をおかけしますが」の真の威力と、状況に応じて使い分けるための「神フレーズ」を伝授します。
明日からのメールが、劇的に洗練されたものに変わることをお約束します。
この記事の著者:
神宮寺 匠(じんぐうじ たくみ)
ビジネス教養コンサルタント / 言葉のソムリエ
「言葉は、思考の画素数である」を信条に、ビジネス現場で誤解を生まないコミュニケーション術を指導。特に、メールやチャットにおける「温度感の調整」に定評がある。
そもそも「お手数」とは? 相手の心理的負担を下げるメカニズム
「お手数(てすう)」とは、文字通り「その物事を行うために要する手間や労力」のことです。
「お手数をおかけしますが」という言葉には、
「あなたに手間(コスト)をかけさせてしまうことは重々承知しています。それでも、あえてお願いします」
という、依頼者の「恐縮する気持ち」と「配慮」が込められています。
なぜ、この一言で依頼が通りやすくなるのか?
心理学的に言えば、人は「自分の労力を認め、尊重してくれる相手」に対して、好意的な反応を示す傾向があります(承認欲求の充足)。
いきなり「〇〇してください」と用件だけを投げつけるのは、相手の労力を無視した「命令」です。
そこに「お手数をおかけしますが」というクッション(緩衝材)を挟むことで、「命令」が「相談」や「お願い」へと柔らかく変換されるのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「お手数をおかけしますが」は、相手に具体的なアクション(作業)を求める時だけに使ってください。
なぜなら、何も作業が発生しない場面(例:単なる報告メール)で使うと、「え? 私、何かやらなきゃいけないの?」と相手を混乱させるからです。この言葉は「作業への対価」として添えるものだと心得ましょう。
【シーン別】コピペで使える! 正しい使い方と例文
では、具体的にどのような場面で使うのが正解なのでしょうか?
よくある3つのシーンと、そのまま使える例文をご紹介します。
シーン1:資料作成や確認をお願いするとき(基本)
最も一般的な使い方です。相手に時間を割いてもらうことへの謝意を示します。
- 例文:
「ご確認のうえ、修正点がございましたらご指摘いただけますでしょうか。お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。」
シーン2:相手のミスを指摘・修正してもらうとき(応用)
相手のミスであっても、修正作業をさせることには変わりありません。ここで「お手数ですが」と言えるかどうかが、デキる人の分かれ道です。
- 例文:
「請求書の金額に一部誤りがあるようです。大変お手数をおかけしますが、再発行のお手続きをお願いできますでしょうか。」
(※「大変」をつけることで、より丁寧なニュアンスになります)
シーン3:違う部署や担当者に回してもらうとき(高度)
「たらい回し」をお願いする申し訳なさを伝えます。
- 例文:
「私の不手際で担当部署を誤ってしまいました。お手数をおかけして誠に恐縮ですが、ご担当の方へ転送いただけますでしょうか。」
ワンパターン脱却! 相手を唸らせる「言い換え」神フレーズ

いつも「お手数をおかけしますが」ばかりでは、芸がないと思われてしまうかもしれません。
状況に合わせて言葉を着せ替えることで、あなたの知性と配慮はより深く伝わります。
1. 相手が忙しいことがわかっている時
- 「ご多忙の折(ごたぼうのおり)」
- 「ご多用中とは存じますが」
- 解説:「忙しい中ごめんね」というニュアンスを強調したい時に最適です。
2. 相手に足を運んでもらう時
- 「ご足労(ごそくろう)をおかけしますが」
- 解説:来社してもらう時など、移動を伴う依頼にはこれ一択です。「お手数」よりも具体的で響きます。
3. 相手にとって面倒な作業を頼む時
- 「ご面倒(ごめんどう)をおかけしますが」
- 解説:アンケートへの回答や、複雑な手続きなど、精神的に「めんどくさい」と思われる作業を頼む時に。「面倒なのはわかっています」と寄り添う姿勢を示せます。
4. 自分の都合で無理を言う時
- 「ご無理を申し上げて恐縮ですが」
- 解説:納期短縮など、明らかにこちらの都合で負荷をかける時は、素直に「無理を言っている」と認めるのが誠実さです。
相手と状況で選ぶ! ベストなクッション言葉
| フレーズ | 丁寧度 | 推奨シーン | ニュアンス |
|---|---|---|---|
| お手数をおかけしますが | 中 | 全般 | 最も汎用的。迷ったらコレ。 |
| ご多忙の折、恐縮ですが | 高 | 目上・社外 | 相手の忙しさを気遣う。 |
| ご面倒をおかけしますが | 中 | 事務手続き | 手間のかかる作業を頼む時。 |
| ご足労をおかけしますが | 高 | 来客・訪問 | 移動をお願いする時限定。 |
| 何卒ご容赦ください | 高 | 謝罪・断り | 依頼ではなく、許しを請う時。 |
意外と知らない? 「お手数」のNGマナー
良かれと思って使ったのに、逆に失礼になってしまうケースもあります。
NG 1:自分に対して使う
×「お手数をおかけしました」
(自分が作業をした後に言うのは間違い)
自分の苦労をアピールすることになります。自分が動いた時は「時間をかけました」ではなく、単に報告すればOKです。
NG 2:当然の業務に対して過剰に使う
社内の定例業務などで、毎回「お手数をおかけしますが」とつけると、慇懃無礼(丁寧すぎて嫌味)に聞こえることがあります。
同僚や部下相手なら、「お願いします」「頼むね」とシンプルに伝える方が、業務スピードを落とさずスマートです。
まとめ:言葉は「相手への想像力」
「お手数をおかけしますが」は、単なるビジネスマナーの定型句ではありません。
それは、「あなたの時間は貴重なものです」というメッセージを相手に伝えるための、敬意の表明です。
- 基本は「お手数をおかけしますが」でOK。
- 忙しそうなら「ご多忙の折」。
- 来てもらうなら「ご足労」。
この使い分けができるだけで、あなたのメールは「事務的な連絡」から「心遣いの届く手紙」へと変わります。
ぜひ、次の一通から意識してみてください。その小さな配慮が、信頼という大きな成果となって返ってくるはずです。
参考文献リスト
- 『敬語の使い方が面白いほど身につく本』合田敏之
- 『入社1年目から差がつく ビジネスメールの書き方』
- 文化庁「敬語の指針」


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