お正月料理の主役の一つである「数の子」。せっかく奮発して購入した高級な数の子を、「塩を抜きすぎて味がなくなった」「苦味が残ってしまった」「食感がふにゃふにゃになった」という理由で台無しにした経験はありませんか?
数の子の塩抜きは、単に水に浸ければ良いというわけではありません。数の子の細胞を壊さず、特有のコリコリとした食感を最大限に引き出すには、科学的根拠に基づいた「呼び塩(浸透圧の利用)」という技法が不可欠です。
この記事では、割烹料理の現場で20年以上数の子を扱ってきた筆者が、失敗のリスクをゼロにする「黄金比の塩水」を使った塩抜き方法を徹底解説します。この記事を読み終える頃には、あなたもプロ級の仕上がりで家族を驚かせることができるはずです。
[著者情報]
和食料理人・佐藤 健一
割烹料理店店主。キャリア25年。毎年1,000本以上の数の子を仕込み、伝統的なおせち料理の技術を次世代に伝える活動を行っている。ペルソナが抱く「高価な食材を失敗させたくない」という不安に寄り添い、最も確実な手法を伝授する。
なぜ「真水」ではダメなのか?数の子の塩抜きで苦味が出る原因
数の子の塩抜きにおいて、最もやってはいけないのが「真水(塩分を含まない水)」に長時間浸すことです。一見、真水の方が早く塩が抜けるように思えますが、ここには大きな落とし穴があります。
数の子の内部には高い濃度の塩分が含まれています。これを真水に浸けると、数の子の外側と内側の塩分濃度の差が大きくなりすぎ、急激な浸透圧の変化が起こります。この急激な変化によって、数の子の細胞が破壊され、大切な「コリコリとした食感」が失われてしまうのです。
さらに、真水で塩抜きをすると、数の子に含まれる旨味成分まで一緒に流れ出てしまい、代わりに「苦味」が強調される現象が起こります。これを防ぐためにプロが用いるのが、薄い塩水を使って塩を抜く「呼び塩」という技法です。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 数の子の塩抜きには、必ず「1.5%〜2%程度の薄い塩水」を使用してください。
なぜなら、この濃度は「呼び塩」として機能し、数の子の内部にある塩分を優しく引き出してくれるからです。真水で急激に抜くと、数の子の表面だけがふやけて中心に塩分が残る「塩ムラ」の原因にもなります。この「薄い塩水を使う」という一手間が、プロの仕上がりへの第一歩です。
失敗ゼロ!プロ直伝「黄金比の塩水」による塩抜き手順

プロが実践する、最も失敗が少なく食感を維持できる「黄金比の塩水」を使った手順を解説します。
1. 黄金比の塩水を作る
まずは、以下の分量で塩水を用意してください。この比率が、数の子の食感を守るための絶対条件です。
- 水:1リットル
- 塩:小さじ1強(約6g〜7g)
- 濃度:約0.6%〜0.8%
※市販の塩抜き用レシピでは1%以上を推奨するものもありますが、家庭でじっくり時間をかける場合は、この「0.6%〜0.8%」の濃度が、旨味を残しつつ苦味を出さない最適なラインです。
2. 塩抜きのタイムスケジュール
数の子の大きさや塩漬けの状態によりますが、標準的なスケジュールは以下の通りです。
- 1回目(6〜8時間): 黄金比の塩水に浸ける。
- 2回目(6〜8時間): 新しい塩水に取り替える。
- 3回目(6〜8時間): 再度新しい塩水に取り替える。
合計で18時間〜24時間かけて、ゆっくりと抜いていきます。
3. 薄皮を剥くタイミング
2回目の塩水交換のタイミングで、数の子の表面にある白い「薄皮」を取り除きます。塩が少し抜けてきたこのタイミングが、最も皮が剥がれやすく、身を傷つけにくい絶好の機会です。指の腹で優しくなでるように取り除いてください。
もし抜きすぎたら?塩抜きの時間調整と保存の注意点
[セクションの目的]: 失敗した時のリカバリー方法と、その後の保存方法を伝え、読者の不安を解消する。
塩抜きで最も多い失敗が「抜きすぎて味がしなくなった」というケースです。しかし、諦める必要はありません。
抜きすぎた時のリカバリー法
もし塩を抜きすぎてしまった場合は、「少し濃いめの塩水(2%程度)」に1〜2時間浸し直してください。これにより、失われた塩分が適度に戻り、食感もわずかに回復します。
保存と味付けのタイミング
塩抜きが終わった数の子は、そのまま放置すると傷みが早くなります。
- 保存期間: 塩抜き後は冷蔵庫で2〜3日が限界です。
- 味付け: 塩抜き完了後、すぐに「だし汁」に漬け込んでください。だし汁に漬けることで、浸透圧が安定し、保存性も高まります。
数の子の状態別・対処法一覧
| 状態 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 苦味が残っている | 塩抜き不足 | あと3〜5時間、新しい塩水に浸ける |
| 味が全くしない | 塩の抜きすぎ | 2%の塩水に1時間浸して「塩戻し」をする |
| 食感が柔らかい | 真水で抜いた / 抜きすぎ | 出汁に漬ける際、酒を少量加えると引き締まる |
| 薄皮が剥けない | 塩抜きがまだ初期段階 | 12時間経過してから再度試みる |
数の子の塩抜きに関するよくある質問(FAQ)
Q: 急いでいるので、お湯で塩抜きしてもいいですか?
A: 絶対に避けてください。 数の子のタンパク質は熱に弱く、お湯を使うと食感がボソボソになり、特有の歯ごたえが完全に失われます。必ず常温(冬場)または冷蔵庫内の冷水で行ってください。
Q: どの程度まで塩を抜けば正解ですか?
A: 「ほんのわずかに塩気が残っている状態」がベストです。 完全に塩を抜ききってしまうと、その後の味付け(出汁)が入りすぎてしまい、数の子の風味が死んでしまいます。端を少しちぎって食べてみて、「かすかに塩を感じる」程度で止めるのがプロのコツです。
Q: 冷蔵庫と常温、どちらで塩抜きすべきですか?
A: 暖房の効いた部屋なら冷蔵庫、寒いキッチンなら常温で大丈夫です。 ただし、水温が上がると細菌が繁殖しやすいため、安全を期すなら冷蔵庫での塩抜きを推奨します。
まとめ:最高の数の子で新年を迎えましょう
数の子の塩抜きは、お正月準備の中でも特に神経を使う作業ですが、「黄金比の塩水(呼び塩)」と「24時間の余裕」さえ守れば、決して難しいものではありません。
- 真水ではなく、0.6〜0.8%の塩水を使う。
- 6〜8時間おきに3回、塩水を交換する。
- 「わずかな塩気」を残して、すぐに出汁に漬ける。
この3点を守るだけで、あなたの作る数の子は、市販の味付け数の子とは一線を画す、香り高く食感豊かな逸品に仕上がります。丁寧に仕込んだ数の子を囲んで、素晴らしい新年をお迎えください。
[参考文献リスト]


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