「緑色の太った鳥が、人の頭に乗って激しく腰を振っている動画」
SNSでそんな映像を見て、思わず吹き出してしまったことはありませんか?
彼の名前は「シロッコくん」。ニュージーランドの環境保護大使にも任命されている、世界で一番有名な「カカポ(フクロウオウム)」です。
「なにこの動き、可愛すぎる!」
「飛べないの? 鳥なのに?」
そのコミカルな姿に心を奪われる人が続出していますが、実はカカポは、世界で残り約250羽しかいない絶滅危惧種です。しかもその絶滅の理由が、あまりにも「無防備で、おっとりしていて、いい匂いがするから」だとしたら、もっと愛おしくなりませんか?
この記事では、現地ニュージーランドでの取材経験もある動物ライターの私が、進化の不思議と人間の執念が詰まった、カカポの愛すべき生態を徹底解説します。
この記事の著者
[著者情報]
名前: 動物生態ライター・マナミ
肩書き: 希少生物ウォッチャー / 元ネイチャーガイド
専門領域: ニュージーランドの固有種、絶滅危惧種の保護活動
実績: ニュージーランド環境保全省(DOC)の保護区取材経験あり。
スタンス: 「『守らなきゃ』の前に『好き』になってもらう」がモットー。
なぜ飛べない? 進化の袋小路が生んだ「太っちょオウム」
カカポは、ニュージーランドにしか生息しない固有種です。
最大の特徴は、なんといっても「世界で唯一、飛べないオウム」であること。そして「世界で最も重いオウム」であることです。
天敵のいない楽園が生んだ「油断」
大昔、ニュージーランドはコウモリ以外の哺乳類が存在しない、鳥たちの楽園でした。
地面を歩き回っても襲ってくる天敵がいなかったため、カカポの祖先たちはこう考えたのでしょう。
「わざわざエネルギーを使って空を飛ぶ必要、なくない?」
その結果、カカポは翼を退化させ、地上で木の実や草を食べる生活を選びました。栄養たっぷりの食事で体は巨大化し、オスは最大で体重4kg(猫くらいの重さ!)にもなります。立派な翼はありますが、今ではバランスを取るためだけに使われています。
唯一の防御策は「固まること」
天敵がいなかった時代の名残で、カカポは自分を守る術をほとんど知りません。
もし危険を感じたらどうするか? カカポは「その場でじっと動かなくなる(フリーズする)」のです。
これは、空を飛ぶワシなどの猛禽類から身を隠すには有効でした。森の緑色に溶け込んで見つかりにくくなるからです。しかし、人間が持ち込んだネズミ、イタチ、ネコといった鼻の利く哺乳類にとって、動かないカカポは「どうぞ食べてください」と言っているようなものでした。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: カカポの「飛べない」という特徴は、平和すぎた時代の証です。
なぜなら、彼らは「逃げる」機能を捨てて、「長生きする(寿命は60〜90年!)」ことに全振りしたからです。この進化のトレードオフが、環境が変わった現代では致命的な弱点になってしまいました。
匂いはハチミツ? 愛おしすぎる「残念な生態」
カカポの魅力は、その見た目だけではありません。知れば知るほど「どうしてそれで生き残れると思ったの?」とツッコミたくなる、愛すべき特徴がいっぱいです。
1. 体から「めちゃくちゃ良い匂い」がする
野生動物といえば「獣臭」がつきものですが、カカポは違います。
なんと、「ハチミツ」や「花」、あるいは「使い込んだバイオリンケースの中」のような、甘くて芳醇な香りがするのです。
この良い匂いは、仲間同士が出会うためのシグナルだと言われています。しかし悲しいことに、この香りが捕食者(ネコやイタチ)を呼び寄せるビーコンになってしまいました。いい匂いが仇になるなんて、あまりにも切ないですよね。
2. 求愛が不器用すぎる
カカポは繁殖も独特です。数年に一度、リムの木の実が豊作の年だけ繁殖します。
オスたちは「レック」と呼ばれる求愛場を作り、「ブーン、ブーン」という重低音を一晩中響かせてメスを呼びます。
しかし、この音が低すぎてメスに届かなかったり、せっかくメスが来てもオスが興奮しすぎて変なダンスを踊って逃げられたりと、とにかく繁殖効率が悪いのです。
3. 人間をメスだと思った「シロッコくん」
冒頭で触れたシロッコくんは、生後すぐに病気にかかり、人の手で育てられました。そのため、自分を人間だと思っている(刷り込み)節があります。
2009年、BBCの撮影クルーが彼を訪れた際、シロッコくんは動物学者のマーク・カーワディン氏の頭に飛び乗り、情熱的に交尾を迫りました。この衝撃映像は世界中で拡散され、シロッコくんは一躍スターに。今ではニュージーランド政府の「公式スポークスバード」として、保護活動の顔となっています。
普通のオウム vs カカポ ここが違う!
| 特徴 | 一般的なオウム | カカポ(フクロウオウム) |
|---|---|---|
| 飛行能力 | ◎ 自由に飛び回る | ❌ 飛べない(歩く、登る) |
| 活動時間 | ☀️ 昼行性 | 🌙 夜行性 |
| 体重 | 数百グラム程度 | ⚖️ 最大4kg(世界最重量) |
| 匂い | 特になし | 🍯 ハチミツや花の香り |
| 防御 | 飛んで逃げる、噛む | 🥶 固まる(フリーズ) |
| 性格 | 警戒心が強い | ❤️ 好奇心旺盛で無防備 |
全頭に名前がある!? 人間たちの執念の保護活動

1990年代、カカポの個体数はわずか50羽ほどまで落ち込みました。絶滅は時間の問題と思われましたが、そこからニュージーランド政府による執念の保護活動「カカポ・リカバリー・プログラム」が始まります。
徹底的な「過保護」管理
現在、カカポは天敵のいない3つの離島(コッドフィッシュ島など)に隔離されています。
そして驚くべきことに、野生のカカポ全頭に「名前」が付けられ、発信機で24時間管理されています。
- スマート給餌器: 体重計付きのエサ箱で、痩せている個体だけに自動でエサが出る。
- ドローン精子輸送: 遺伝的多様性を守るため、離れた島のメスへドローンで精子を運ぶ。
- 24時間監視: 巣にカメラを設置し、ヒナが生まれたらレンジャーが泊まり込みで守る。
この涙ぐましい努力の結果、2023年には個体数が247羽まで回復しました。それでもまだ、たったの250羽です。
日本で会える? 私たちにできること
「こんなに可愛いカカポ、日本の動物園で会えないの?」
残念ながら、日本の動物園には一羽もいません。
カカポはニュージーランドの国宝級の扱いであり、国外への持ち出しは厳しく禁止されています。現地ニュージーランドでも、保護区である離島への立ち入りは制限されており、一般人が野生のカカポを見ることはほぼ不可能です。
それでも支援はできる
会えなくても、彼らを守ることはできます。
ニュージーランド環境保全省の公式サイトでは、寄付やグッズ購入を受け付けています。また、SNSでシロッコくんの動画をシェアして「カカポ」という存在を広めることも、立派な保護活動の一つです。
まとめ:守りたい、この愛すべき「進化の迷子」
カカポは、効率や競争とは無縁の世界で生きてきた、平和の象徴のような鳥です。
飛べなくて、太っていて、逃げるのが下手で、いい匂いがする。
そんな「弱点だらけ」の彼らが、人間の手によって絶滅の淵から少しずつ戻ってきています。
- 世界で唯一飛べない、太っちょオウム
- ハチミツの香りがする愛すべきポンコツ
- 全頭に名前があり、人間が全力で守っている
もしまたSNSで、緑色の鳥がドタバタしている動画を見かけたら、思い出してください。
彼らが、地球上で懸命に生きる、愛すべき250羽の仲間たちであることを。


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