「直近の売上を確認しておいて」「直近の予定は?」……。ビジネスシーンで頻繁に耳にする「直近(ちょっきん)」という言葉。なんとなく使ってはいるものの、「具体的にいつからいつまでのこと?」「『最近』とは何が違うの?」と、その正確な範囲やニュアンスに不安を感じたことはないでしょうか。
「直近」は、現在を起点として「最も近い」一点を指す言葉ですが、その解釈がズレると業務上のミスやコミュニケーションの齟齬を招く恐れがあります。この記事では、ビジネスマナーとコミュニケーションの専門家の視点から、「直近」の正確な定義、ビジネスで許容される時間的範囲、そして相手に誤解を与えないための言い換え術を徹底解説します。
[著者情報]
吉井 誠(よしい まこと)
ビジネスコミュニケーション・コンサルタント。大手事業会社の人事・教育担当を経て独立。これまで1万人以上の若手社員や管理職に対し、誤解を招かない「正確なビジネス言語」の指導を行っている。著書に『その一言で信頼を失う!ビジネス用語の落とし穴』など。
「直近」の正体:現在から「最も近い」過去または未来の一点
「直近」という言葉の最大の特徴は、現在という基準点から見て、過去または未来の「最も近いところ」を指すという点です。
よく混同される「最近」との決定的な違いは、その「範囲」にあります。
- 最近: 現在を含めた、少し前からの「ある程度の幅(期間)」を指します。
- 直近: 現在から遡って、あるいは先を見て「最も近い特定の一点(またはごく短い期間)」を指します。
例えば、「直近の会議」と言えば、今日から見て一番新しく行われた(あるいは次に行われる)1回分の会議を指すのが一般的です。一方で「最近の会議」と言うと、ここ数回分の会議全体を指すニュアンスになります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: ビジネスシーンで「直近」を使う際は、常に「特定の一点」を指しているのか、それとも「ごく短い期間」を指しているのかを自問自答してください。
なぜなら、自分では「一番新しいデータ」のつもりで「直近のデータ」と言っても、相手は「ここ数日分のデータ」と受け取る可能性があるからです。少しでも曖昧さが残る場合は、「直近(昨日15日分)のデータ」のように、具体的な数値を添えるのがプロの仕事です。
「直近」はいつまでを指す?ビジネスで許容される時間的範囲の目安

「直近」が指す具体的な日数は、扱う業務のスピード感や文脈によって変化します。しかし、一般的なビジネスコミュニケーションにおいて、相手が「直近」と聞いてイメージする範囲には一定の傾向があります。
- 日次業務の場合: 当日、または前日・翌日。
- 週次・月次業務の場合: 今週(先週)・今月(先月)。
- プロジェクト単位の場合: 現在進行中のフェーズ、またはその直前・直後のステップ。
重要なのは、「直近」という言葉には法的な定義や絶対的な日数の決まりがないということです。そのため、認識のズレを防ぐための視覚的な理解が不可欠です。
誤解を招かないための「直近」の使い分けと言い換え術
ビジネスにおいて「直近」は便利な言葉ですが、相手との信頼関係を強めるためには、より具体的な言葉への言い換えが効果的です。特に、過去を指すのか未来を指すのかを明確にすることが重要です。
1. 過去の事象を指す場合
「直近の売上」→「昨日付の売上」「先週分の売上確定値」
このように言い換えることで、相手はどのデータを確認すればよいか迷わずに済みます。
2. 未来の予定を指す場合
「直近で伺います」→「今週中に伺います」「本日中に改めてご連絡します」
「直近」を未来の意味で使うと、相手は「今すぐなのか、数日中なのか」を判断できません。具体的な期限を提示するのがマナーです。
📊 比較表
表タイトル: 似た意味を持つ言葉の使い分け一覧
| 言葉 | 指す方向 | 範囲のニュアンス | ビジネスでの主な用途 |
|---|---|---|---|
| 直近 | 過去・未来 | 最も近い一点 | 最新データの参照、次の予定の確認 |
| 最近 | 過去 | 現在に近いある程度の期間 | 近況報告、市場のトレンド分析 |
| 近々(ちかぢか) | 未来 | 近いうちのどこか(幅がある) | 検討中の案件、予定の打診 |
| 目下(もっか) | 現在 | たった今、現在進行中 | 現在取り組んでいる課題の説明 |
「直近」に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 「直近の土日」と言われた場合、過ぎた土日のことですか?それとも次の土日のことですか?
A1. 文脈によりますが、月曜日や火曜日に言われた場合は「過ぎたばかりの土日」を指すことが多く、木曜日や金曜日に言われた場合は「次に来る土日」を指すのが一般的です。しかし、非常に間違いやすいため、「○日(土)・○日(日)」と日付で確認するのが最も安全です。
Q2. 上司から「直近の課題を報告して」と言われました。いくつ報告すべきですか?
A2. 「直近」は本来一点を指しますが、この場合は「今まさに直面している、優先順位が最も高い課題」を1〜2個に絞って報告するのが適切です。数多くの課題を羅列すると「最近の課題」になってしまうため注意しましょう。
まとめ:「直近」を使いこなしてコミュニケーションの精度を上げる
「直近」という言葉は、現在に最も近い情報を特定するための便利なツールです。しかし、その便利さゆえに、人によって解釈が分かれるというリスクも孕んでいます。
- 「直近」は現在から最も近い「一点」を指す
- 過去にも未来にも使えるが、範囲は極めて限定的
- 誤解を防ぐには「○日分」「○日の会議」と具体化する
言葉の定義を正しく理解した上で、あえて具体的な数字や日付を添える。その一手間が、あなたのビジネスパーソンとしての信頼を形作ります。今日から「直近」を使う際は、その先にいる相手の時計と自分の時計が合っているか、一瞬だけ確認する習慣をつけてみてください。
[参考文献リスト]
- 文化庁, 言葉の指針(敬語の指針など)
- 日本経済新聞社, [日経ビジネス用語辞典]
- NHK放送文化研究所, [「最近」と「直近」の使い分けに関する調査報告]
[著者プロフィール]
吉井 誠
現場主義のコミュニケーション講師。言葉の行き違いによるトラブルをゼロにすることを目指し、企業研修や執筆活動を行う。趣味は、古今東西の辞書を読み比べ、言葉の変遷を辿ること。


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