ビジネス文書や契約書、あるいは役所からの通知などで頻繁に目にする「当該(とうがい)」という言葉。「当該事項」「当該箇所」など、なんとなく「その」という意味で使っているけれど、正確な定義や「該当」との違いを説明できる自信がない、という方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、「当該」とは「今話題にのぼっている、まさにその事柄」を指す指示語的な役割を持つ言葉です。
この記事では、ビジネスライティングの専門家の視点から、「当該」の正しい意味や語源、間違いやすい「該当」との決定的な違い、そして文書の品格を上げる具体的な使い方を徹底解説します。
✍️ 執筆者プロフィール:言葉の専門家「文(ふみ)さん」
名前: 佐藤 文(さとう ふみ)
肩書き: ビジネス文書校閲エディター(キャリア15年)
専門領域: ビジネスライティング、公用文作成要領、契約書・法務文書の校閲
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「当該」を使いこなすコツは、「直前に具体的な名詞が出ているか」を確認することです。
なぜなら、「当該」は「今言ったばかりの、その〜」という強い指示性を持つため、文脈の中に具体的な対象がない状態で使うと、読み手を混乱させてしまうからです。特に契約書や公用文では、指示対象を明確にすることがトラブル防止の第一歩となります。
1. 「当該」の正しい意味と語源:なぜ「その」と言わないのか?
「当該」という言葉は、日常会話ではあまり使われませんが、公的な文書では欠かせない存在です。
基本的な意味
「当該」は、「今話題にしている事柄に直接関係すること」、あるいは「その事柄に当てはまること」を意味します。英語では “the said” や “the concerned” に相当し、特定の対象を指し示す役割を果たします。
なぜビジネスや法務で「当該」を使うのか?
日常語の「その」や「この」は、指し示す範囲が曖昧になりがちです。一方、「当該」という言葉を用いることで、「他でもない、今まさに議論の対象となっているこれ」という限定的なニュアンスを強調でき、誤解の余地をなくすことができます。
2. 【最重要】「当該」と「該当」の決定的な違い

最も混同されやすいのが「該当(がいとう)」です。この二つは漢字が似ていますが、文法的な役割が全く異なります。
「当該」と「該当」の使い分けガイド
| 項目 | 当該(とうがい) | 該当(がいとう) |
|---|---|---|
| 品詞・役割 | 連体詞的(名詞を修飾する) | 動詞的(〜に当てはまる) |
| 主な意味 | 「その」「例の」 | 「条件に合う」「当てはまる」 |
| 使い方の例 | 当該箇所を確認する | 条件に該当する |
| 言い換え | その、問題の | 当てはまる、適合する |
判別のポイント
- 「当該」は名詞の前に置く: 「当該+名詞」の形で使います(例:当該部署)。
- 「該当」は後ろに「する」を伴う: 「〜に該当する」の形で使います。
3. ビジネス・公用文での実践的な例文
「当該」を適切に使うことで、文章の論理性が高まります。以下の例文で、具体的な文脈を確認しましょう。
① 契約書や規約での使用
「乙が本規約に違反した場合、甲は当該違反行為の差し止めを請求できるものとする。」
- 解説: ここでの「当該違反行為」は、直前に述べられた「乙が行った具体的な違反」を指します。
② ビジネスメールや報告書での使用
「先日ご指摘いただいた不具合について、当該箇所の修正が完了いたしました。」
- 解説: 「その箇所」と言うよりも、「指摘されたまさにその場所」という特定感が強まり、正確な報告になります。
③ 公用文や行政文書での使用
「申請内容を確認の上、当該事務を速やかに処理すること。」
- 解説: 役所などの公用文では、指示対象を厳格に特定するために「当該」が多用されます。
公用文においては、指示代名詞(これ、それ、あれ)の使用を避け、なるべく「当該〜」や「同〜」を用いることで、解釈の揺れを防ぐのが通例である。
出典: [文化庁]「公用文作成の考え方」 (2022年建議) – 2025年参照
4. FAQ:よくある疑問
Q. 「当該」を自分に対して使ってもいいですか?(例:当該私)
A. いいえ、使いません。「当該」は物事や第三者を指す言葉です。自分を指す場合は「私」や「当職」「当方」などを用います。
Q. 「当該」の類語で「同(どう)」との違いは?
A. 「同(例:同社、同氏)」も「その」を意味しますが、より直近に出た名詞を繰り返すのを避けるために使われます。「当該」は「問題となっているそのもの」という、より強い特定・限定のニュアンスがあります。
まとめ:正確な言葉選びが信頼を生む
「当該」という言葉を正しく使えるようになると、文書の精度が上がり、読み手に「この人は正確な仕事をする」という印象を与えることができます。
- 「当該」は「その」「例の」という意味の名詞修飾語。
- 「該当」は「当てはまる」という状態を表す言葉。
- 直前に具体的な対象があることを確認して使う。
迷ったときは、「その+名詞」に置き換えて意味が通じるかを確認してみてください。この記事が、あなたのビジネスコミュニケーションの質を高める一助となれば幸いです。
参考文献リスト
- 文化庁「公用文作成の考え方(建議)」 https://www.bunka.go.jp/
- デジタル大辞泉(小学館)
- 明鏡国語辞典(大修館書店)
[著者情報]
佐藤 文: ビジネス文書の校閲を専門とするエディター。契約書からオウンドメディアの記事まで、年間1,000本以上のテキストを精査し、論理的で美しい日本語へのブラッシュアップを行っている。


コメント